去りびと おくりびと



母親と最期の別れをしてきた。看取ることはできなかった。
実家の旭川はとっくに秋の風が吹いていて、夏と一緒に去ってしまったみたいだった。
到着したその日に納棺、翌日には慌ただしく告別式と火葬。
実家は代々神道系なので、仏教系の葬儀とは随分趣向が違っていて湿っぽさがない。
線香の香りがなく花の香りがする。
通夜は「終祭」と言うし、お経ではなく「天地賛仰詞」を唱える。
死はけがれや凶事ではなく、自然の営みであるという。
とはいえ、頭で理解していることと心で感じることの間には大きなギャップがあった。
そのリアリティーを受け入れること。突き上げてくる感情に降伏すること。
67歳になったばかりの母親の死化粧を写真に収めた。
それがリアリティーに触れるときの自分の基本的な態度だから。
みんないずれ記憶の中にしかいなくなるのだから。
自分も薄情な息子だったけど、母親も最期までマイペースな人だった。
ひろしが到着するまで待ってれ、と親父は母親の耳元で何度も呼びかけていたけど、
もう待てん・・と呟いたらしい。
火曜サスペンス劇場を毎週欠かさずに見ていた母。
なのに犯人が判明する前に寝ていた母。
受験勉強中の息子に一杯飲むけ?などと水割りを勧めてきた母。
まことちゃんを全巻揃えていた母。
サザエさんはだしのゲンブラックジャック火の鳥も形見になってしまった。
毎朝きっちり家族全員のご飯作ってパートにも働きに出ていた母。
自分に正直で、おおらかで太陽みたいな人だった。
おかあさん、あなたの息子でほんとうによかった。
ありがとう。
さようなら。