ムーンウォーカー


ファッション系の専門学校で特別講義をやった。
子供のころになりたかった職業で「先生」なんてのは一番ありえない選択だったのに、
どこをどう間違ったのか先生と呼ばれてました。ほんとうはカーデザイナーになって
ネスカフェのCMに出て違いのわかる男と呼ばれたかったのですが、インスタントと
レギュラーコーヒーの違いはわかっても、国産と外国産牛肉の違いはわからないし、
天然と養殖うなぎの違いもわからないし、松浦亜弥上戸彩どっちがあややだったか
わからなくなるし、おすぎとピーコは区別したことがないし、小泉元総理はずっと
Dr.マシリトだとおもってました。そういった小さな間違えを積み重ねることで
教壇に立つという事態に至ったわけだ。世の中どこか間違ってる。
講義内容は自由にやってよいとのことだったので、追悼企画マイケル・ジャクソン
PVを題材に2時間ほど、質疑応答含めると3時間ほどやりました。
個人的におもしろい授業だったとおもいますが、学生がおもしろかったかどうかは
知らない。いまの学生ってほとんどマイケルをリアルタイムで知らない世代だった。
ストリートのワルだったりゾンビだったマイケル・ジャクソンがやがて人類愛に目覚め、
宇宙に飛び出すまでのPVの遍歴は、彼の意識の広がりそのものであり、最大のテーマは
キング・オヴ・ポップでも人種の超越でもチャイルドラブでもなく、やっぱり引力からの
離脱だったとおもうのです。
ムーンウォークはあまりにも有名ですが、Smooth CriminalのPVで体を45度傾けたまま
倒れないというダンスパフォーマンスがあって、ワイヤーで吊ってるんじゃないかという
ぐらいありえないビジュアルが当時すごい衝撃的で、みんな真似したりしてましたが
せいぜい30度ぐらいが関の山だった。あのパフォーマンスはゼロ・グラヴィティ(無重力
といってちゃんとした特許を取得してます。実はこのようなパフォーマンスがたくさんの
人々の無意識下の願望を刺激したのではないでしょうか。翼が生えたような浮遊感、
呪縛からの解放、そしてフリーダム。この世界の重い引力圏(固定観念に縛られた社会、
煩わしい世間、バカなメディア等々)から離脱してムーンウォーカーのように軽やかに。
マイケル・ジャクソンはこの引力から完全離脱して本来の故郷に還ってしまいましたが、
この星はちょっと棲みにくかったのかもしれない。
引力を6分の1にするのは難しいけれど、たとえば会社を辞めるだけでも相当軽くなる。
俗世間からも浮く。なにより軽くなって浮いたぶん視界が広くなる。
財布も一時的に相当軽くなるかも知れないけれど、たいていお金の問題というのは
二次的なことであって、言い訳にしていたに過ぎないということに気づくかもしれない。
むしろ言い訳に言い訳を積み重ねることでどんどん引力が重くなりスパイラルから
抜けられなくなる。このご時世、会社をクビになるのはまたとない機会です。
もう会社に戻る必要なんてないという可能性も探ってみるべきではないでしょうか。
ハローワークに並ぶ人々を見ておもいました。みんながビビってる時がチャンス。