利休にたずねよ

戦国武将ばかりが女子にちやほやされる世間ですけど、千利休のなにがすごいって問われても一言でいえない。
あの伊達政宗だって弟子入り志願したほどですよ?なにがそうまでさせたのかと言われても、ものすごくお茶が
旨かったとか侘びててほっこりしたからとか世間的にはそんな認識かしら。に比べたら戦国武将はわかりやすい。
神も仏も恐れない。延暦寺は燃やしてしまうわ帝なんて雑魚キャラ扱いだわ火攻め水攻め兵糧攻め言葉責め鼻責め
ロウソク責め亀甲縛りと技ありテクニシャンだわ女1000人孕ませて生ませるわ、こんなもの食えるかー!って
天守閣からちゃぶ台ごと投げ捨てそうな勢いだわ、やっぱり世間の女子はそういう男がええんやろか。
ちなみに戦国時代にちゃぶ台はなかったわ。必殺ちゃぶ台返しが親父の威厳として乱用されるようになるのは
明治になってからです。戦国武将に比べたらずいぶんスケールの小さい威厳だこと。
以前「へうげもの」のレビューで戦国時代とは「美意識」の戦いだったに違いないと書いたことがあるのですけど、
合戦が表舞台なら茶会はいわば裏舞台、茶会は名器を見せびらかす富と権力の象徴であり、数奇者たるセンスの
見せどころであり、茶のセンスがいいってことは道理に通じているということであり、それすなわち戦の駆け引きや
政治的な心理戦にも応用が効くってことです。「美意識」は宇宙の理、ものごとの本質を見抜く目ともいえましょう。
利休の「利」は刃物の鋭さで、「利休」とは鋭さもほどほどにせよという意味らしいのですけど、皮肉なことに
利休の美意識は秀吉が怖れるほどに鋭利な刀となってしまった。デザイナーにとって美意識とは刀みたいなもので
あまりにも隙がなく鋭すぎるひとは怖い。秀吉の逆鱗に触れたといって利休はとうとう切腹を命じられてしまう。
秀吉を怒らせた理由には諸説があるのですけど、ほとんどヤクザの因縁か言いがかりみたいなものばかりで謎は
深まるばかり。ほんとうのところ秀吉は利休を怖れていたのだろうとおもうわけです。
へうげもの」でも利休の壮絶な自害シーンが描かれてましたけど、彼を失ってあの漫画のコアは大丈夫なんだろか。
なんとなくポッカリと穴が開いたような。まったくもって下賤な秀吉と冷徹鉄仮面の石田三成が憎たらしいわー
とかなんとか500年前の人々に思いを馳せるにはよい漫画です。
その一方で、ただの土くれを法外な値に釣り上げるブランディングを生み出した日本初のクリエイティブディレクター
といわれる利休ですけど「黒の美学」の先駆者でもあります。山本耀司川久保玲なんかもその末裔だとおもう。
「黒」って不思議な色だよね。正確には色じゃないけど。モニターの「黒」は単に発光する色がない状態のことで、
3次元物体の「黒」はすべての光を吸収して反射する色がない状態をいうのだけれど、その色のない物体の純粋な
マテリアルとしての存在感といいますか、その存在感を発見したこと、極限までエッジを追求したことが利休の
すごいところだとおもうわけ。ただの侘び寂び枯れじゃない妖艶なの。

へうげもの(9) (モーニング KC)

へうげもの(9) (モーニング KC)

利休にたずねよ

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